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私のメディア・リテラシー

尾﨑 雄 Ozaki Takeshi(「老・病・死を考える会プラス」世話人 、元日経ウーマン編集長のコラム【私のメディア・リテラシー】が更新されました。第21回のテーマは「社会保障制度の改革は『経路依存症』が命取りに?>」です。


 自動車を世界で最も多く生産しているトヨタ自動車が、1月26日、驚くべき人事を発表した。豐田章男社長(66)が社長の座を13歳も若い佐藤恒治平執行役員(53)に譲る。佐藤氏は執行役員中下から2番目のランクである。創業家の血筋を引かずとも優秀なサラリーマン社員から優秀な人材を抜擢して経営を任せる。

 27日付け読売新聞は、その意味を解説している。トヨタの新車販売台数は3年連続で世界首位になる見通しだが、自動運転や電動化などの次世代技術の開発は待ったなし。ハイブリッド車など自動車生産だけではない、量的拡大に依存しているだけでは異次元的な技術革新を続ける世界の自動車メーカーに後れを取る。そこで社業を「全方位」的に展開して生き残りを賭ける。世界を抜いた豊田章男社長の手腕をもってしても「100年に一度とされる大きな変革期」を乗り切ることは困難であり、発想転換するための決断だった。

 いっぽう、医療界はどうだ。制度改革は何度も「待ったなし」とされながらも「ズルズル延命」の繰り返しと言ったら言い過ぎだろうか。世界に冠たる国民皆保険制度を守れと言う先輩たちの遺言を楯に無作為の罪を上塗りしてきた。65歳以上の高齢者人口がピークを迎える2040年もまごまごしているとアッという間にやってくる。にもかかわらず、医師会も政府も地方自治体も学会も当事者意識はいまひとつ。トヨタ自動車のように決断する気配は感じられない。

 人気上昇中の入山章栄早稲田大・大学院教授によると、日本全体が「経路依存症の罠」にはまっている。「経路依存症(Path Dependence)」とは、平たく言えば事なかれ主義である。調べてみると、「制度や仕組みが過去の経緯や歴史に縛られる現象」だ。個人も組織も過去に行った意思決定に制約を受ける傾向がある。人は一度慣れたものを変えることにストレスを感じやすいため、ある決定を下したあと、仮に状況が変わっていたとしても効力を及ぼすことがある……」ということらしい。

 経路つまり今まで歩いてきた通りにコトを任せて置けばラクだということ。だからエネルギーを強いられる改革は、先送りされる。医療・介護・福祉のモデル事例とされるデンマークが改革に成功しているのはなぜか。それは「切羽詰まったから、改革をやらざるを得なったからです」。デンマーク外務省にいたことのあるコンサルタントはそう教えてくれた。

 全世代型社会保障構築会議の座長を務めた清家篤氏(日本赤十字社社長)は、日本記者クラブで、こう指摘した。共助を理念とする社会保障制度の改革を論じるとき『負担と給付』という言葉はやめたほうがいい。「負担」は「拠出」と言い換えるべきだ」と。安易な常套句に依存していれば思考停止になる。日本語のセンスにうるさい劇作家・井上ひさし流に言えば、「負担と給付」という紋切型の業界用語を使っている限り、全ての改革は覚束ない。政府もマスコミもそして国民も同罪である。

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