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自宅に帰りたいと泣く患者、戸惑う医師

 メッセンジャーナースの活動の紹介です。医療総合媒体の日経メディカルで、連載「患者と医師の認識ギャップ考」を展開していました。日経BPの了承が得られましたので、シリーズで掲載していきます。


 第8回は、石川ひろみさん(メッセンジャーナース・広域紋別病院副院長兼看護部長)の記事です。テーマは『自宅に帰りたいと泣く患者、戸惑う医師』です(ご略歴などは執筆当時のものです。ご了承ください)。



自宅に帰りたいと泣く患者、戸惑う医師


石川ひろみ(メッセンジャーナース・広域紋別病院副院長兼看護部長)

2016/12/20


 メッセンジャーナースには、患者さんの意思決定を支え、患者さんと家族、それを取り巻く人々をつないでいく、「紡ぐ」という役割があります。先日、患者さんや家族の意向に添っているつもりが、実は周囲の医療従事者らの方に思い込みがあったという事例がありました。


 ある日の夕方、内科医が私(副院長兼看護部長)の執務室を訪れました。「困ったことが起きました。実は、担当患者でALS(筋萎縮性側索硬化症)のAさんに泣かれてしまって。急に家に退院したいと言うのです」と話し始めました。彼は、私がメッセンジャーナースを学んでいることを知り、「メッセンジャーナース 看護の本質に迫る」を読んで、感想メールもくれていました。


 Aさん(老年期女性)は10年頃前から、右の手足の動作困難を自覚して整形外科を受診し、5年前には左右人工股関節置換術、2年前に脊髄疾患による手術を受けました。


 ALSの確定診断は昨年夏にうけました。全身の筋力は低下し続け、今年初め、大学病院で胃瘻造設術を受け当院経由で自宅退院しました。4カ月後に脳梗塞を発症し、脳外科病院で治療後当院にリハビリテーションのため転院し、先月、大学病院でALS評価を受けました。


 帰院後、Aさんは担当医や看護師らに、「病気は仕方無い。でも、自分でできることは自分でしたい」「夫は仕事もせず、頼りにしたこともない。娘は仕事があり、私の世話をしたいとも思っていないし、私も世話にはなりたくない!」。こんな愚痴を漏らしていました。


 Aさんの夫は無口で何も話さず、長女も自宅介護に限界を訴えていました。訪問ステーション会議でも、以前からのAさんと家族の関係が問題視され、さらに筋力が低下し、日常生活にほぼ介助が必要になった今、介護力の無い自宅での生活は関係者のだれもが無理だと思い込んでいました。何しろ、Aさん自身が自宅を頑なに拒否していたため、本人の意向に添って退院先は療養型病院という方向で決まっていました。ところが、転院近くなったある日、突然Aさんの本心を聞かされた担当医は、困難を感じ、メッセンジャーナースに相談しようと思ったのです。


 私は、Aさんの状況について、当該病棟の看護師長に詳しい聞き取りをしながら、担当医からの情報を伝えました。彼女は「仕切り直しですね」と答え、再調整を決めました。


 私は、Aさんの大学病院での評価結果や家族への説明状況の情報提供がないことを重視し、再度確認して、医師から家族に説明することを提案しました。その結果、予後半年から1年であると説明された長女は驚き、時間が限られていることを初めて知り、自宅で過ごさせたいという思いに変わりました。看護師がAさんと家族との間に入り、お互いの思いを確認しつつ、「自分でしたい」というAさんの願いと介護を要する現状とのギャップを受け入れる必要があることも確認し合いました。


 次に私は、地域拠点病院として家族の介護をバックアップする退院計画の立案を提案しました。医師と看護師は、地域包括ケア病床のレスパイト入院を活用した「在宅時々入院」の退院計画を家族に提示し、継続的に支援する姿勢を示すと、家族、ケアマネジャー、訪問看護ステーションの関係者が皆、安心しました。


 Aさんは泣いて喜びながら自宅に退院できました。管理職でもある私は、医療従事者と患者・家族をつなぐことは、看護師の育成に役立つことも実感することができました。


■著者紹介

石川 ひろみ(いしかわ ひろみ)

 公立の総合病院をスタートし15年前から看護師長、10年前からトップマネジャーとして数カ所の病院を転勤しました。8年前から看護職副院長として病院全体の運営にかかわり、2013年に認定看護管理者、今年11月にメッセンジャーナースSA認定を頂き、現在は北海道オホーツク圏で院内、周辺地域で副院長、北海道看護協会支部長として活動しています。


日経メディカル Online 2016年12月20日掲載

日経BPの了承を得て掲載しています

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