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在宅での最期を願う患者、無理だという往診医

更新日:3 日前

 メッセンジャーナースの活動の紹介です。医療総合媒体の日経メディカルで、連載「患者と医師の認識ギャップ考」を展開していました。日経BPの了承が得られましたので、シリーズで掲載していきます。


 今回で第11回目となります。村松 静子さん(メッセンジャーナース・在宅看護研究センターLLP代表)の記事で、テーマは『在宅での最期を願う患者、無理だという往診医』です(ご略歴などは執筆当時のものです。ご了承ください)。



在宅での最期を願う患者、無理だという往診医


村松 静子(メッセンジャーナース・在宅看護研究センターLLP代表)

2017/02/06


 十数年も前のことです。82歳の末期癌の男性が、カラスの鳴き声が気になるからと、緩和ケア病棟から3日間の外泊目的で我が家へ帰りました。医師からは「いつ戻って来ても良いですよ」と言われていました。医療行為が多く、往診だけでは無理という医師同士の話し合いから、私たちナースも訪問看護に入ることになりました。


 呼吸困難があるものの酸素吸入は頑として拒否、医療者が勧めようものなら怒り出す始末です。何事も自分で決めて実施していきました。


 外泊の2日目の夜のことです。呼吸状態が最悪となり、往診医が駆けつけました。「家ではもう無理。病院へ戻った方がいい。在宅ではこれ以上は無理だ」と息子さんに説明し、息子さんは納得されたようでした。しかし本人は、「病院」という言葉を聞くと呼吸がさらに荒くなり、妻の腕をつかみ、首を横に振って拒否を示します。「夫がここにいたいというなら最期までそうしてあげたい。でも、医師も息子も病院へ連れて行けと言う。自分だけでは看切れない。娘は手伝うと言ってくれたけれど……」。妻の心は揺れ動いたといいます。


 傍らにいた訪問看護師から私が電話を受けたのは、夜の9時近くでした。


「奥さんが本人の希望を叶えてあげたいと言うんです。できることならこのまま在宅療養を続けられないものでしょうか。だからといって、私にはどうすることもできません。奥さんと代わって話してもらってもいいですか」。


 電話を代わった妻は「先生に言ってください。主人は家にいたいんです。私もそうさせてあげたいんです。娘もそう言っていますから」と、すぐに往診医に代わってしまったのです。あまりに突然のことで一瞬たじろいだ私でしたが、往診医には、妻の心情に加えて、緩和ケア病棟の医師からは最期まで家にいられるならそれでもいいと言われている旨を伝えました。


 「そんなの無理だよ。在宅はもう無理。病院にはいろいろ医療機器もそろっているし、病院でも待っているんだ」。


 強い口調で一気に思いを吐き出した医師に対して、私はこう尋ねました。


「先生、ご本人はどうなんでしょうか」。


「いや、本人は病院のことを言うと呼吸が荒くなるよ」。


「もしご本人がこのまま家にいたいようでしたら、私たち看護師が極力付き添う体制をとらせていただくこともできますが」。


「あっそう、じゃあちょっと待ってて、息子さんと話してみるから」。


 それから5分後、「本当に付いてくれるんだね。じゃあ、家にいさせることにするって」(往診医)。


 ご本人の思い、奥さんと娘さんの思いが医師と息子に伝わったのです。すでに往診医が手配し到着していた救急車はそのまま引き返したといいます。それから2日後、この男性は安らかに逝きました。


 後に自ら電話をくださった往診医がおっしゃいました。「いやぁ、正直、私は在宅では無理だと思っていたんですよ。それができた。あなたたちの活動は素晴らしい。ありがとうございました。一言お伝えしたくて」。


 「在宅死」を遂げられるには、本人の思いとそれを支えようという家族の思いが医師に正しく伝わることが必要です。スムーズにことが進まない時、その懸け橋になるのがメッセンジャーナースなのです。


■著者紹介

村松 静子(むらまつ せいこ)

日本赤十字社医療センターICU初代看護師長。「在宅看護」という言葉すらなかった時代、その道を開拓しつつ、ひたすら看護の原点を模索し続けてきた。現在、その集大成として、メッセンジャーナースの育成と連携プロジェクトの構築に取り組んでいる。


日経メディカル Online 2017年2月6日掲載

日経BPの了承を得て掲載しています

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