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医師の申し出を断りたいが断れない

 連載「患者と医師の認識ギャップ考」の15回目です。石川ひろみさん(メッセンジャーナース・副院長)が、『医師の申し出を断りたいが断れない』のテーマで認識ギャップについて執筆しています(ご略歴などは執筆当時のものです。ご了承ください)。


医師の申し出を断りたいが断れない

「終末期を気ままに暮らしたい」と願う患者・家族


石川 ひろみ(メッセンジャーナース・副院長)

2017/06/01


 現代の医療は、様々な職種が関わる“チーム医療”が基本です。それぞれの専門職は、他職種と円滑に連携するスキルを求められています。しかし、病院という組織では、医師の指示がないとほとんどの物事は始まらず、他職種はその指示のもとで活動するよう求められがちです。


 A氏は70歳代で、車で片道30分位の町に住んでいます。肺癌末期のA氏は、いつも妻を同伴して外来に通院しています。


 3カ月程前の受診時、段々と病状が悪化しているA氏に主治医のB男性医師(30歳代)から、「この状態で通院するのは辛いでしょう。私が往診してあげます」と言われ、A氏夫婦は困っているとソーシャルワーカーから私に相談がありました。


 ソーシャルワーカーは、「A氏夫婦は、B医師からの申し出を断りたいと言っています。でも断ったらもう診てもらえないのではないかと思うと断れないと言っています」と話しました。


 その時付き添っていた外来の副看護師長も、A氏夫婦と往診について話しました。ご夫婦が断りたいと言うのでB医師に伝えましたが、「遠いから、あなたたちが行きたくないのだろう! 僕とソーシャルワーカーと訪問看護とで進めるから、外来の人達はもう関わらなくていいです!」とどう喝されたそうです。


 ソーシャルワーカーは、往診準備の指示を受けましたが、妻との面談で「夫はたばこが大好きで、家で気ままにたばこを吸い、好きなテレビを見て過ごしています。そんなところに先生に来てもらっても、かえって申し訳ない。気ままに過ごさせ、夫が辛そうでたばこも吸えなくなったら入院させてもらって、看取りたいです」と話しており、往診を無理強いできないとのことです。


 妻の意向をB医師に話しても、「遠慮しているだけだ!」と聞き入れず、ソーシャルワーカーも困っていました。


 私はA氏の病状を確認し、今すぐ往診しなくても良さそうだと判断しました。B医師は日頃から他職種との連携が下手で、独走しがちな面があります。私はA氏夫婦にとって最善の支援につながるよう、まずは担当の訪問看護師とソ-シャルワーカー、外来担当者で連携し、状況を見守ることを提案しました。医師の方針や指示内容、A氏や妻の日々の様子などの情報を訪問看護会議で共有し、間接的な医師との協働を進めました。


 「通院できるうちは通いたい」というA氏の意向を訪問看護師からも医師に伝えてもらい、往診しないまま経過したある日です。病状報告で、A氏が自宅で発熱していることを聞いたB医師は早速往診しました。発熱のため、呼吸が少し荒くなっていましたが、受診時とは違う穏やかな表情でテレビの前に横になっているA氏の姿を見て、B医師は診察後、「入院したくなったらいつでも言ってください」と話して帰りました。それからは、受診したA氏や訪問看護師に入院希望の有無を確認し、往診はしていません。


 医療従事者も人間同志なので、常に円滑な連携ができるとは限りません。しかし、お互い医療のプロとして、患者のことを考えているのは間違いありません。メッセンジャーナースは状況を冷静に見極め、どこにズレがあるのか、誰と誰を繋ぐと患者さんやその家族の最善を見つけ出せるかを共に考える役割だと思っています。


■著者紹介

石川 ひろみ(いしかわ ひろみ)

 公立の総合病院をスタートし15年前から看護師長、10年前からトップマネジャーとして数カ所の病院を転勤しました。8年前から看護職副院長として病院全体の運営にかかわり、2013年に認定看護管理者、昨年11月にメッセンジャーナースSA認定を頂き、現在は北海道オホーツク圏で院内、周辺地域で副院長、北海道看護協会支部長として活動しています。


日経メディカル Online 2017年6月1日掲載

日経BPの了承を得て掲載しています。

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