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医療者と患者・家族が離れてしまっている


 連載「患者と医師の認識ギャップ考」の23回目です。鈴木紀子さんが医療者と患者・家族が離れてしまっているのテーマで認識ギャップについて執筆しています(ご略歴などは執筆当時のものです。ご了承ください)。


医療者と患者・家族が離れてしまっている


鈴木紀子(メッセンジャーナース・在宅看護研究センターLLP組合員)

2017/12/01


 ある日、後輩で看護師のAさんから、叔父さんのことで相談したいというメールが届きました。「叔父は83歳、5年前に胃癌の手術を受けその後再発。今回、多発性骨転移を指摘され入院し、放射線治療を受けています。骨の補強のための手術も予定されているようですが、詳しいことは分かりません。叔父が退院後の生活を心配しています。一度、相談にのってください」というものでした。


 私はAさんに電話して、在宅療養に関する情報を提供するだけでなく、ご本人の考えなど、もう少し話を聞いた方がよいのではないか、と話しました。すると彼女は、「実は、いとこ達も叔父の病状がよく分かっていないみたいなんです。そのことも気になっています」と言います。急きょ、土曜日に会う約束をしました。


 Aさんの説明は、こうでした。


 「叔父は妻が癌で亡くなってから、他人の手を借りずに一人暮らしをしています。元ジャーナリストで、昔取材した時の写真や資料が部屋にたくさんあり、先日病院にお見舞いに行った時『一度家に帰って片付けをしたい』と話していました。いとこ達は遠方に住んでおり、なかなか病院に来ることもできないようです。叔父がしっかりしているので、主治医からの説明は叔父1人にされていました。ただ今回は、骨の手術の話についても、先生から『手術をしましょう』と言われ了解したものの、どんな手術をするのか分からないようでした。また、叔父は『少しでも歩けるようにリハビリテーションをして、最期は緩和ケア病棟に入院したい』と話していました」。


 話を聞く中で、ご本人は姪であるAさんを信頼していることが分かりました。また、Aさんは、叔父さんのこれからを、いとこ達と一緒に話し合いたいと考えていることも理解できました。


 そこで私はAさんと2人で、今の状況を確認しながら情報を整理することにしました。その結果が以下です。


(1)まず、家族から、叔父さんの病状をどのように受け止めているのかを、今後の不安なども含め、しっかり聞く。

(2)今回の手術前の医師(消化器・整形外科)からの説明時には、ご本人だけでなく家族も同席する。そこに、Aさんも同席することを了解してもらえるよう、説明の日程調整を行う。

(3)今後の予測に関しては、手術による体力への影響や痛みなどを具体的に聞く。可能であれば予後についても尋ねる。


 Aさんと相談から5日後、2人の主治医からの病状説明の時間が決まりました。その後、Aさんから説明時の様子を伝えるメールが私に届きました。


 文面からは、以下のような事情が見えてきました。


 病院側は、キャンサーボードで消化器外科・整形外科・血液内科・緩和ケアなどが連携をもっているようでした。でもその情報は、ほとんど本人・家族に伝わっていないため、余命1~3カ月ということも、本人・家族は理解していない様子でした。


 そんな状態のまま、一昨日、いとこ達もそろい、叔父さんの病状の現状と今後の方針について医師から説明を受けたのでした。いとこ達は、病状が悪いとは思っていたが、それほど短い命だとは考えていませんでした。そして話し合う中で、彼らも治療というより緩和ケアがいいのではとなりました。叔父の希望と同じ結論でした。


 また、医師から「術後、整形外科病棟でのリハビリテーションが思うように進まず、加えて容態悪化が進行した場合、緩和ケア病棟への転棟が間に合わない時は、消化器外科へ移り、緩和ケア病棟への転棟を待つようにしましょう」と話され、叔父も家族も少し安心したそうです。


 説明を受けたのは、手術のため整形外科に移る前日の夜だったそうです。


 そこで、とりあえず緩和ケアを申し込み、叔父さんの「家に帰っていろいろ片付けたい……」という希望は、体調を見ながら一時帰宅して叶える方向となりました。


 でも、Aさんには病院の対応に釈然としないものを感じていたようです。


 今回の病状説明の前のことです。Aさんは「家族は叔父の厳しい状況を充分に理解していない」と病棟の看護師に話しました。でも、「医療ソーシャルワーカー(MSW)を入れましょうか……」と答えるだけだったそうです。このときAさんは病棟看護師の受け答えに「違和感を覚えた」と記していました。「家族が不安を持ちながらも尋ねることができずにいる時、いつもはそばにいないMSWさんが全体的に話してくださるのだろうか?」。


 病院側のスタッフ間ではたくさんの情報共有がされているのに、患者本人とその家族には何も情報が届いていないのではないか――。こう感じたAさんは、「医療者と患者・家族が離れてしまっています」と綴っていました。


 Aさんは「私もこんなことをしていたのかもしれない……。反省ばかりですが、今回は、何とか家族につなぐことができました。まだまだ途中なので頑張ってみます」と締めくくっていました。


 今回、Aさんの「医療者と患者・家族が離れてしまっています」という言葉に、私は家族の方々の辛さを感じました。病棟看護師やキャンサーボードの面々は、もっとご本人の気持ち・ご家族の気持ちを受け止める努力をすべきではないかと思いました。


 私がメッセンジャーナースを志したのは、医療者と患者・家族の距離を縮めるために看護師にやれることがあると思ったからです。その思いを強くさせた事例でした。


■著者紹介

鈴木紀子(すずきのりこ)

公立病院での訪問看護師、その後行政での訪問看護指導員を経て、在宅看護研究センターに入社。在宅での療養者・家族の方と出会う中で、看護に求められる想いを受け止め、『素手の看護』を大切に実践を続けている。


日経メディカル Online 2017年12月1日掲載

日経BPの了承を得て掲載しています。

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