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日本で発芽した「ひと粒の麦」

 原山建郎氏の新作『遠藤周作の「病い」と「神さま」』をお届けします。今回から第三章に入ります。

第三章 日本で発芽した「ひと粒の麦」――キリスト教の「実生化」


1.西欧から伝えられ、日本で発芽した「ひと粒の麦」


☆キリスト教作家、三浦綾子、遠藤周作が試みた、キリスト教の「実生化」


 日本を代表するキリスト教作家、遠藤周作さん(カトリック)、三浦綾子さん(プロテスタント)がめざしたものは――戦国時代(1549年)、西欧のイエズス会から派遣された宣教師、フランシスコ・ザビエルらによって伝えられた「舶来」のキリスト教を、そのまま「接ぎ木(別の植物の切り口に、枝を接合する)・挿し木(枝の一部を地に挿す)」したクローン(遺伝子コピー、栄養生殖)ではありません。


 日本の宗教風土にポトリと落ちた「ひと粒の麦(福音)」が日本で発芽し、やがて花が咲いて、小さな実をつける――それは日本で実生化したキリスト教であり、日本人のキリスト教を求めてやまなかった三浦さん、そして遠藤さんが自らの「病い」を深く見つめ、「神さま」を祈り求めた人生を通して――お二人それぞれの歴史的身体(精神的土壌)を通して発芽した苗に花が咲き、やがて遠藤さんは『沈黙』などの作品を、三浦さんは『氷点』『続氷点』、二十一世紀に生きる、私たち日本人のこころに届く――「果実」として世に送り出したのです。


 重要なキーワードとなる「実生化」という言葉は、〈異文化におけるキリスト教の実生化(インカルチュレーション)〉 を研究テーマの一つとしている桜美林大学准教授、長谷川(間瀬)恵美さんの研究論文「遠藤周作とキリスト教の実生化」からヒントを得ました。この論文の冒頭には、次の一文が載っています。


 キリスト教が異文化に移植される形態(土着化)は、通常「文化適応」、「文化内受肉」、「異文化内開花」等と邦訳されるか、もしくはカタカナでそのまま「インカルチュレーション」と表記される 。私はそれに対して「実生化」という言葉を提唱している。


「実生化」の玄義(幽玄な教義)は聖書に因る。幾世紀も前にエルサレムの大地に落ちた「一粒の麦」が実を結び、弟子たちの福音伝道とともに世界に蒔かれ、日本の大地においても根を張り、 出芽し、成長し、花開する。「実生化」は、キリスト教の信仰に基づいたメタフォリカル(暗喩的)な表現である。遠藤周作(1923~1996)の文学活動における宗教的主題は、いかにしてキリスト教が日本の宗教風土のもとで開花することができるかという問いであった。遠藤は文学作品において終始、日本の文化・思想に生きる日本人の心に共感しうるキリスト教を表現することに努めた。ゆえに、私は遠藤周作の文学を「キリスト教の実生化」をテーマとした文学活動で あったと考えている。

(2010年、京都大学文学部 「アジアの宗教と多元性」研究会で発表した論考より抜粋)


 たとえば、長谷川(間瀬)恵美さんが提起した「日本におけるキリスト教の実生化」を、三浦綾子さん、遠藤周作さんの小説のなかで、どのようにとらえたらよいか――2023・2024年の文教大学オープンユニバーシティ(社会人講座)で行った『遠藤周作の「病い」と「神さま」』講座、そして2025年の『三浦綾子の「病い」と「神さま」』講座をふり返りながら、お二人のキリスト教作家が試みた「「日本におけるキリスト教の実生化」について考えてみたいと思います。


♠ マハトマ・ガンジーのことば 5

善きことはカタツムリの速度で動く。(Good travels at a snail's pace)

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