「捨て石にはなりたくないが、踏み石には喜んでなろう」
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原山建郎氏の新作『遠藤周作の「病い」と「神さま」』をお届けします。今回から第六章『遠藤さんの遺言――「心あたたかな病院がほしい」』に入ります。
第六章 遠藤さんの遺言――「心あたたかな病院がほしい」
1.43年目を迎えた「遠藤ボランティアグループ」
☆ 患者の心理を学びながら、傾聴ボランティアをめざす。
讀賣新聞の連載エッセイ「患者からのささやかな願い」には大きな反響があり、遠藤さんは讀賣新聞にエッセイ「心あたたかな病院」を、再び寄稿しました。
病人の愚痴や嘆きを、じっと「聞いてあげる」ボランティアになってくださる人はいませんか(男、女を問いません)。しかしこれは多少の勉強がいるので、そのことをお含みください。この試みは試行錯誤なので色々、研究しながら改めていかねばならぬものですから。
1982年5月、遠藤さんの呼びかけで集まった6人の主婦を中心に「患者の愚痴や嘆きに耳を傾ける、病院ボランティア」をめざす遠藤ボランティアグループが誕生しました。
初代名誉代表には遠藤さんが就任。ボランティアを受け入れてくれる病院の選定・交渉、病院ボランティアの教育などの実務作業は、ソーシャルワーカーの奥川幸子さんが担当。当時、健康雑誌の編集者だった原山は、初代代表の遠藤さんから「補佐(のちに顧問)」を命ぜられ、2代目代表の和波その子さん、3代目代表の江頭瑞枝さんのあとを受けて、12年前からは遠藤ボランティアグループの4代目代表(兼顧問)を務めていました。
そして、2025年春、長年「クローバーの郷」コーディネーターをつとめてきた山崎洋子さんに、第5代目代表をバトンパス。私は名誉顧問に就任しました。
☆知恵のない善意は、相手の心を傷つける。
遠藤さんは「知恵のない善意は、相手の心を傷つける」という河合隼雄さん(ユング派の臨床心理学者)の助言を受けて、同グループの会合で「ボランティアグループの皆さんは、医療や介護、心理学の専門家の話を聞いて、患者の心理を学びながら、傾聴ボランティアをめざしてください」と強調されました。その後、新型コロナ禍の影響で活動が中断する2020年2月まで、年に数回の講座に専門家を講師にお招きし、「学びながら、活動する」グループでした。
遠藤さんの「生誕100年」にあたる2023年1月、讀賣新聞西部本社(九州、山口、沖縄版)の右田和孝記者から、シリーズ企画「今を映す遠藤文学」の取材を受けました。「患者の不安 分かち合う」という見出しの記事に、私のコメントが紹介されています。

現在、グループの活動はコロナ禍で中止を余儀なくされており、再開できる日を待ち望んでいる。「遠藤さんがおっしゃった、心あたたかな医療とは、とても素朴なものです。大事なのは、その心が、次々とバトンパスされていくことにあると思っています」
(讀賣新聞西部本社版、朝刊文化欄、2023年2月4日発行)
20202年2月(コロナ禍が拡大する)までは、主婦を中心とした30名ほどのメンバーが、首都圏にある8つの病院・介護施設(東京衛生病院、虎の門病院本院、虎の門病院分院、関東中央病院、伊藤病院、東京都健康長寿医療センター、さくらテラス青葉町、クローバーのさと)で、ボランティア活動を行っていました。
たとえば、医療・介護施設での実践活動(外来受付・各科への案内、外来患者の子どもの託児、小児科・患児の遊び相手、テーブル拭き・話し相手、傾聴・催し物の手伝い、図書の貸出・整理)のほか、1年に数回、医療や心理学の専門家から話を聞く講座(勉強会)を開いていました。この講座は、遠藤さんが、「患者の心理、傾聴の心得など、専門家に学びながらボランティア活動をしてほしい」と、とくに強調した項目のひとつです。
いちばん直近の講座は、コロナ禍が拡大する直前(2020年1月)、医療型短期滞在施設「もみじの家」のハウスマネージャー・内多勝康さんの公園「医療ケア児とその家族が直面している現状と問題」でした。
☆ グループの理念「四つの願い」、ボランティア活動で「心がけたいこと」
遠藤ボランティアグループは、発足当初からグループの理念である「4つの願い」を大切にしています。
また、活動病院の1つ、東京衛生病院で学んだ「心がけたいこと」を参考にしながら、ボランティア活動を行っています。
☆ 理念「四つの願い」
1.遠藤周作氏が提唱した「心あたたかな医療」の実現をめざします。
2.患者さんの声に、私たちは耳を傾けます。
3.いつも患者さんの目線で、優しく寄りそいます。
4.患者さんのために、ささやかなお手伝いをいたします。
☆ 活動にあたって「心がけたいこと」
●患者さんやご家族のプライバシーを尊重し、守る
●活動中に知り得た情報を、自分の利益のために用いない
●自主的、主体的な活動をする。自分の考えで勝手な行動をせず、関係の担当者と連絡を取り、相談する
●自分自身の健康に注意し、無理をしない
●約束した日時はきちんと守る。変更が必要な時は、必ず連絡する
●派手な服装、化粧などは避ける。過度に地味でなくとも良い
●特定の宗教の話、個人的な価値観強要はしない
●人間として対等な関係(優しさや親切の押し売りは迷惑)を保つ。患者さんとの個人的な深い関わりは持たない
●聞かないで聴く(聞きすぎない)
●自分の話を長々としない(主役は自分ではない)
メンバー募集のパンフレットには、遠藤さんのあいさつ文が載っています。
数年前、「心あたたかな医療を願う」という私のキャンペーンにご賛成下さった女性の方々が、お作りになったものです。そのほとんどが家庭の主婦であるにもかかわらず、時間をやりくりされて、ボランティアとしてのご勉強を習われ、都内4つの病院(※1990年当時)で、患者たちのために奉仕されています。幸い、私の友人であるソーシャルワーカーの奥川幸子さんと、主婦の友社『わたしの健康』編集部長の原山建郎さんが力を貸して下さったので、八年間も途切れることなく続いてきました。
やがて我々もそうなるかもしれない病気の方々に、あたたかい奉仕をするということは、単なる感傷でできるものではありません。遠藤ボランティアの方々が、それぞれの忙しさの中で、この奉仕を続けて下さることに、私は心からの尊敬を持ち、そのお手伝いをさせていただきたいと思っています。
このパンフレットの発行を機会に、数多くの新しいメンバーが、遠藤ボランティアグループに参加されることを期待してやみません。
平成2(1990)年記
☆捨て石にはなりたくないが、踏み石には喜んでなろう。
遠藤さんは病院ボランティア活動において、提唱者である自分の役割について、私たちの会合に出席した折、「ボランティアの皆さんの踏み石になりたい」と述べています。はじめのうちは、不安定でグラグラしていても、たくさんの人々が踏んでくれて、そのまわりに新たな踏み石を置いていけば、やがてしっかりしてくるというのです。
「捨て石にはなりたくないが、踏み石には喜んでなろう」
結核の手術で片肺と7本の肋骨をとられ、73年の人生を肝臓病、糖尿病、高血圧、腎臓病などの慢性病に苦しめられてきた遠藤さんの〈いのち〉のことばは、いまでも私の耳朶の奥でやさしく響いています。
❤ マザー・テレサのことば 4
この世界は食べ物に対する飢餓よりも、愛や感謝に対する飢餓の方が大きいのです。(There is more hunger for love and appreciation in this world than for bread.)



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