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「平和という条件のなかでしか生きられない」

  • 32 分前
  • 読了時間: 4分

 「残しておきたい7人のコラム」から、安藤武士さんの「医師として、武士として」を紹介します。今回は「戦争倫理学」です。



vol.9

戦争倫理学

2003-4-11


 「イラク戦争」の山は過ぎた。中東の世界はあらたな情勢を迎えている。2月下旬、新聞の書評覧に加藤尚武著「戦争倫理学」という表題が目に入った。早速、手にした。222頁からなる新書本である。「イラク戦争」が差し迫っているなか、米英の主張が正しいのか国際世論が正しいのか判断することが目的でなく、「表題」に興味を持ったからである。誰もが「倫理外の絶対悪」と思っている「戦争」と、ことの善し悪しを論ずる「倫理学」とが結びつかなかったのである。「戦争」に、善い「戦争」、悪い「戦争」があるのであろうか。「正義の戦争」があるのであろうか。「戦争倫理学」とは何か、小生の理解したことを雑駁に記す。


 戦争とは主権国家間の「もめごと」を武力で解決することである。悲惨な戦場を目にした人は戦争を絶対悪と思うであろう。しかし、有史以来、戦争は続いている。これからも無くならないであろう。加藤氏は、世界中の世論が「戦争」に向かって走り出したとき、自分の考えこそが正気であるといえるため、自分自身の位置を正確に測定できるような、羅針盤を持たなくてはならない。「羅針盤」となるものが「戦争倫理学」であると述べている。著者は「戦争倫理学」とは、「戦争のルール」のことであるといっているが、小生は「戦争の是非」と「戦争の際の行動基準・ルール」を論ずる学問と定義したほうが理解され易いと思う。


 「戦争の是非」を論ずる場合、もっとも基本的なことは「外国から軍事攻撃を受けたらどうするかという行動基準・ルール」に集約されると説明している。その行動基準は、絶対平和主義、戦争限定主義、無差別主義に分類されている。絶対平和主義は、自己の安全を保持するための自衛権をも放棄し、いかなる軍事行動も行うべきでないという考え方である。「戦争は悪だ」という道徳的な価値判断が重きをなしている。戦争限定主義は、すでに起こっている軍事行動だけは認めようというものである。無差別主義は、戦争は主権国家の固有の権利でそれを規制するいかなる規制もありえないという考えである。現代の戦争は「戦争限定主義」から「無差別主義」に傾きかけているが、「自衛のための戦争」と「国際連合が容認した戦争」は国際世論に受け入れられている。


 「戦争の際の行動基準・ルール」は、正義のガンマンと同じ行動基準であるという。西部劇の好きな人はお分かりと思う。相手がピストルを抜く瞬間を見極めて、相手よりも後にピストルを抜き、相手より先に引き金を引く。正当防衛が成り立つ。国際連合憲章では、正当化できる唯一の武力行使は自衛権の行使であるとしている。議論が多いところであるが、防衛のためという理由で先手を打った武力行使が容認されることもある。「非戦闘員の殺傷の禁止」は、「戦争の際の行動基準・ルール」の最も基本的かつ重要なルールである。意図的に非戦闘員の殺傷を行えば犯罪となる。


 多くの人は「戦争を絶対悪」というが、「武力攻撃を受けた場合は」、「家族が、知人が拉致されようとしたらどうするのか」と質問をたたみかけられると「力で対抗せざるを得ない」と回答することになる。果たして、絶対平和主義を貫くことができるであろうか。小生は、そのような状況を作らないようにするとしか答えられない。


 著者、加藤氏は「厳格な倫理に沿った限定戦争は容認されうる」という立場に立っているようであるが、「……、戦争を適当に制限しつつ維持していくことの方が現実的だと考える人は、地球の環境がもはや戦争に絶えられなくなっていることを忘れている。戦争という賭けは、勝利者にとっても重大きな損失をいみする。環境という運命共同体の運命を担った人類は、平和という条件のなかでしか生きられない。……」とも記し、戦争のない世界を願っている。


 戦争はこれからも起きるであろうが、国家という次元でなく地球という次元で平和を求めれば、「戦争倫理学」という学問は不要になるであろう。

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