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医療における「選別」は「災害医療」にとどめたい

20 時間前
読了時間: 4分

 「残しておきたい7人のコラム」から、から、安藤武士さんの「医師として、武士として」を紹介します。今回は『災害医療 』です。


vol.17

災害医療

2004-01-14


『選別』


 昨年の12月26日午前5時30分、イランの南東部にある古都バムでマグニチュード6.5の地震があったとこは記憶に新しい。人口9万7千人といわれる古都は壊滅状態で、死者3万1千人、負傷者2万2千人(1月8日、WHO発表)にも達するとも言われている。土を固めたレンガ作りの家の崩壊による圧死者が多く、救助の余地は殆どなかったと報道されている。


 1995年1月17日、午前5時46分、淡路島の野島活断層を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生した。阪神・淡路大地震である。神戸市では震度7の激震であった。家屋、ビルの倒壊、火災が相次ぎ、交通機関、電気、ガス、水道も寸断され市民生活は完全にマヒし、約30万人が避難生活を余儀なくされた。震災による直接の死者は5488名で、当日の午前中に死亡した人は4461人(81.3%)に達した。死因は窒息・圧死が4224人(77.0%)と圧倒的に多く、4320人(78.8%)が自宅で死亡したと報告されている(1996年厚生省発表)。


 昨年、小生が関係する学会で阪神・淡路大震災の経験を基にした「災害医療」の講演を聴く機会があった。被災状況が詳細に報告された。阪神・淡路大震災では、救助活動のためヘリコプターが出動したが(延べ1336回:消防庁資料)、約80%の人が地震発生後約15分以内に圧死していたことが検証され、ヘリコプターが救命に寄与した度合いは高いとはいなかったようである。遺体を運搬していた可能性も否定できず、助けうる負傷者を医療機関に運搬していなかったこともあり得る。東海地震が話題になっている昨今、それを踏まえ、学会、国、都道府県、医師会等で「災害医療対策」が整備されてきていると報告された。


 小生の手元に、大阪府医師会・救急医療部が2000年1月に発行した「災害時における医療施設の行動基準(第1版)」がある。災害発生後72時間以内の救急医療期・救出救助期の救命に関わる医療活動に関する行動に焦点を絞って活動基準が記されている。


 災害医療の目標は、「負傷者の最大多数に対して、最良の結果を生み出す」ことである。この点が、「一人の患者に最良の結果をもたされなければならない」日常の医療行為とは大きく異なる。災害の急性期医療の評価は、「妥当な医療が行われたならば救命できたはずの死亡数の多少」を尺度としており、最大多数の至福を達成する唯一の目標は、助けうる負傷者を一人でも失わないようにすることである。


 この目的を達成するため、災害医療の急性期では救命可能な人を優先し治療することが求められる。最初のプロセスとして救急隊員、救急救命士、先着医師による負傷者の選別(トリアージ)が行われる。トリアージが災害医療のスタートであり、以降の展開を左右する重要な行動である。治療や搬送に際し優先順位の高いものから、緊急治療群(I)、準緊急医療群(II)、非緊急医療群(III)、死亡群(0)に分けトリアージ(選別)が行われ、標識札(トリアージタッグ)が装着される。選別された負傷者は、以降、それに基づき次の医療が施される。トリアージタッグは、I:赤、II:黄、III:緑、0:黒とし、右手、左手、右足、左足の順に取り付けられることになっている。


 災害現場の前 線で行われるトリアージを一次トリアージ、篩い分けトリアージというが、トリアージを行う際の留意点が記されている。


(1)対応できる医療資源を正しく評価する。

(2)チームを組織化し、行動計画を練る。

(3)揺ぎないリーダーシップを発揮できる指揮官を選ぶ。

(4)一人の負傷者に時間を費やさない(一人の負傷者に1分以上かけてはならない:血圧計などの医療器械を用いず理学的所見のみで判断する)

(5)治療は気道の確保と外出血の止血のみで、それ以上の応急処置を行ってはならない(救護班でない)。

(6)「最も近い」「最も騒がしい」負傷者から、トリアージを開始しない。

(7)他人のトリアージを非難しない。


 これらの点に留意し、「呼吸」「循環」「中枢神経」の順で負傷状態を評価するSTART(Simple Triage and Rapid Treatment)方式を用いトリアージを行うことを薦めている。一人の負傷者にのみ対応するのではなく、状況が刻々と変わる被災地で対応できる医療資源との兼ね合いで多数の負傷者に対し「神」の如くトリアージを行うわけであるから、トリアージを行う救急隊員、救急救命士、医師に課せられた任務は重く厳しい。


 通常の医療では「告知と同意」「情報開示」なしには行われなくなりつつある現在でも、災害医療では可及的に多数の人を救うべく一人の医療人の判断で「告知と同意」「情報開示」なしに医療が開始されるわけであるから、「医療」という文言は同じでもその基盤は全く異なるのである。


 多数の「救命」だけを目的とする「災害医療」は、一人の病める人に対する「心のケア、疼痛緩和」を中心に行われる「終末医療」とは対極におかれる「医療」といえる。医療人にとって行ってはならないとされている病める人に対する「選別」が最も重要である医療分野があることを知っていただきたいためこのコラムを記した。医療における「選別」は「災害医療」にとどめたいと願いつつ。

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