NPOに拘った酒井医師のケア論(3)
酒井忠昭先生の 「NPO に拘った酒井医師のケア論」のその3です。
「ケア」について考えてきました。現今、世界情勢から気候崩壊に至るまで黙示録的な未来が迫ると感じられ、困惑して立ち竦む私たちに、縋りつく何かはないのでしょうか。フェミニズムが探してきた「ケアの倫理」に希望を託すことは出来ると考えます。
人類は孤独ではありながら、社会集団をつくって一緒に生活をしていますが、政治的な枠組みの中では、暴力と植民地的な装置に組み込まれてしまったのが歴史の示すところです。結果、現実は資本主義の究極の形としての社会的危機、政治的危機、気候崩壊に瀕しています。しかし、冒頭で述べたように人類の営みはすべてケアといってよく、人類が善く生きるためには相互扶助的に「政治的ではないケアのプラットフォーム」で分担して活動することに希望を託すほかないと思います。具体的な道筋はイメージしにくいものの、情報ではさまざまな形の萌芽があります。
現世、ほとんど議論の余地のない現実とされながら、近年フェミニズムが掘り起こしたケアの倫理からは、誤りと考えられる家父長制は実は人類史の規模では、浅い歴史しかもたず、人類史の永いの期間で女性が権限を握り、闘争を忌避していた歴史が存在したと近年証明されました(万物の黎明 D・グレーバー、D・ウェングロウ、酒井隆史訳、光文社、2023)。家父長は思わぬ立場の逆転で戸惑うに違いありませんが、徐々に自覚してゆく(短期間に100%でないにしても)ほかないでしょう。これまでのままでは、資源が枯渇し、世界に戦争が多発し、核兵器が使用される可能性さえ否定できないのですから。
人間を深く愛する神ありて もしもの言わば、われの如けむ
釈迢空「倭(やまと)をぐな」
酒井忠昭:1967年千葉大学医学部卒業、慶応義塾大学外科学教室入局。1975年都立駒込病院呼吸器外科入職、医長。1995年社団法人ライフケアシステムに加わり訪問診療に従事。2001年英国でターミナルケア、在宅診療の調査・研究を行う。2007年NPOホームケアエクスパーツ協会設立、2015年認定NPOとなる。訪問看護ステーション、コミュニティ音楽療法、ディグニティセラピーなどで地域コミュニティ活動を主導している。医学博士(慶応義塾大学)。主な業績、「インフォームド・コンセント(R・フェイドン、T・ビーチャム著、酒井忠昭・秦洋一共訳、みすず書房)」、「医療倫理の夜明け(D・ロスマン著、酒井忠昭監訳、晶文社)」。
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